自宅を本拠地とする契約調査業務と事業場外労働

【日本インシュアランスサービス事件・東京地裁平成21年2月16日
 労経速2037】
○自宅を本拠地として、自宅から確認先(被保険者宅、病院、警察
 事故現場等)を訪問して告知の有無、事故の状況、障害の状態等の
 事実関係を確認し、その結果を報告にして会社に郵送するという
 業務
○休日労働の労働時間の算定について会社の定めた概括的な算定
 方法が有効か否かが争点となった
 移動時間:
 自宅と確認先の移動時間は原則として労働時間ではないが、移動
 時間が一定以上となる場合に限ってその超過分を労働時間として
 扱う
 報告書作成時間:
 1年間の実績にもとづいて平日1日あたりの報告書作成時間を算出
○裁判所は、労働のほとんど全部が使用者の管理下にないことから、
 一定の算定方法に基づいて概括的に報告書作成時間等を算定
 することにも合理性があると判断し、本件の場合には会社に裁量権
 の逸脱はないと判断
○休日なので所定労働時間等が観念できず、
 みなし労働時間制によることができないとした上で、
 使用者者の定めた一定の算定方法について裁量権の逸脱が
 あるか否かという判断枠組みで判断している点はある意味斬新で
 ある。
 (みなし労働時間制によることができない、という点は議論あろう
  と思われる)

 

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競業会社に就職した執行役員に対する転職差し止め請求

【X生命保険事件・東京地決平成22年9月30日・新2831】
○生保会社を退職した執行役員に対して競業禁止合意に基づいて
 1年間の競業行為を容認したもの。
 差し止め請求が認められた事例として参考となる
○ファクター
 ・債務者は執行役員として相当な厚遇を受け競業避止条項に対する
  代償としての性格もある
 ・執行役員契約書において、競業禁止条項がある(2年間)
 ・新たな保険商品の種類、開発計画、計画の進捗状況及び販売時期
  等に関する営業上の秘密にアクセスする権限があった
 ・債権者も競業会社も日本全国において営業を行っており、地域制限
  がなくてもやむをえない
○退職後の競業 下110418
 ・サクセスほか(三佳) 最高裁平成22年3月25日
  在職中の競業行為はなかった
  退職後の特約はなく、退職後の不法行為も否定
 ・ことぶき事件 最高裁平成21年12月18日
  退職後の特約はないが、退職後の不法行為を肯定(顧客カードを使用)

 

 

 

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派遣業務の消滅と派遣労働契約の終了

【ジョブアクセスほか事件・東京高裁平成22年12月15日
 労判1019・下110620】
○派遣先の業務が消滅した場合に派遣労働契約は当然に終了するか
○1審は「当該職務が存在する限りでの労働契約と認定し、高裁は
 その認定を否定したものであり、ある意味単なる事例判例である
●対処方法
 1 当該業務が無くなった場合には期間途中でも当然に派遣労
   働契約が終了する旨明確に規定する
   労働契約法17条が強行法規であるという立場に立ったとしても、
   契約中途解約に合理性が認められやすくなる可能性もあると
   考える(私見)。
   少なくとも実務上は有効な手法ではないか。
 2 契約期間を短期にする
   派遣であれば更新期待は基本的には否定されるはず
 3 三都企画建設(大阪地裁平成18年1月6日)を参考にして
   業務が無くなった場合は労基法26条の休業手当しか支給しない
   (民法排除特約)と規定する

 

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店舗閉鎖を理由とするアルバイト店員の整理解雇が有効とされた例

【大隅事件・東京地裁平成23年2月7日・労経速2106】
○店舗閉鎖に伴って当該店舗に勤務するアルバイト店員全員を整理解雇したものである
 ので人選の合理性に問題はないと判断されている(単なる事例判決)
○アルバイトには職場限定の特約が認定されている
 判断ファクターは以下のとおり
 ・アルバイト店員の採用権限は店長にある
 ・労働条件通知書には店舗名が特定されている
 ・異動があるとの記載はない

 

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派遣先の直接雇用義務

【イナテック事件・名古屋地裁岡崎支部・平成23年3月28日判決・労経速2106】
○偽装請負において、労働者と注文主企業との間の雇用契約の成否が問題となった
○労働者側は黙示の雇用契約、40条の4の直接雇用申込義務等を主張したが裁判所
 はいずれもこれを否定
●黙示の雇用契約の否定については、松下プラズマディスプレイ(最高裁平成21年
 12月18日)から考えて当然
●40条の4については、そもそも派遣元から抵触日通知がないので申込義務自体が
 発生していないと判断。条文通りであり、以前から主張されていたことであるが、
 この点を明確に認めた裁判例として使える(権威の無い裁判所の判決であることが
 残念ではあるが)

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添乗員と事業場外労働

【阪急トラベルサポート(派遣添乗員)第2事件・東京地裁平成22年7月
 2日判決・労判1011-5 新2796】
○登録型派遣添乗員の添乗業務が「労働時間を算定し難い」として事
 業場外労働の適用を認めた事案
○労働契約では日当1万6000円とされ、就業条件明示書には労働
 時間を原則として午前8時から午後8時とする定めがあり、事業場外
 みなし協定では休憩時間をのぞき1日11時間労働したものとみなす
 という規定があった。
○事業場外労働の適用を認めるに至ったプラスファクター
 ・単独で添乗業務を行っている
 ・会社から貸与された携帯電話はあるが、会社に随時連絡をしたり
  指示を受けたりはしていない
 ・会社に出社せずにツアーに出発し、貴社することなく帰宅している
 ・アイテナリーおよび最終日程表の記載からは労働時間を正確に
  把握することができないし(概ね15分30分1時間単位のおおまか
  な時間しか記載していない)、現場の状況で観光の順番やそれに
  要する時間、帰国便の変更をすることもあったから、アイテナリー
  等により当日の業務の具体的指示を受けたとは評価できない
●東京地裁平成22年5月11日(みなし適用否定)
 東京地裁平成22年9月29日(みなし適用肯定)
●現在は通信手段が発達しており、事業場外でも連絡がとれる以上
 事業条外みなしは適用されないという主張が労働側からなされる
 ことが多く、そのような誤った見解を述べる労基署の監督官も散見
 されるが、本判決はその点を明確に否定している点で高く評価で
 きる。
 「電話やファクシミリなど必要な場合は連絡可能な設備が備えられ
 ている在宅勤務について、事業場外みなし労働時間制の適用があ
 ることを完全に否定することにもなりかねない」とも述べている点は
 興味深い。

 

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役職・職位を引き下げる降格の合法性が認められた事例

【東京都自動車整備振興会事件・東京高裁平成21年11月4日
 労判996-13、下100421】
○電話や窓口での応対が悪いと苦情の多かった職員について、
 副課長から係長への降格処分を行った事案
 ちなみに、当該職員は組合の書記長でもある
○裁判所は降格処分について裁量権の逸脱または濫用はないと判断
 ・他の職員を指導する地位にあった
 ・にもかかわわらず窓口対応・電話対応の悪さが会員や職員の間
  で問題となり、会議でも何度も取り上げられるまでに至った
 ・そのようなものを従前の役職にとどめておくことは組織上の観点
  からふさわしくない
 ・1ランク降格に過ぎず、経済上の不利益も少ない(3862円に過ぎ
  ない)
●単なる事例判決であるが、以下の点で参考となる
 1 人事権の行使としての降格について、業務上の必要性と不利
   益の比較考量という枠組みで判断していること
 2 業務上の必要性を判断する際に組織上の観点を肯定している
   こと(1審判決は、降格しても窓口対応があるので必要性がな
   いと判断しているが、問題社員を上位職においておくこと自体が
   組織上問題であるのは当然であって、1審判決は明らかに
   非常識である)
 3 処分正当と認めるに足る根拠事実が十分であれば不当労働行為
   意思は否定されると判断している点
   (態度の悪い問題社員が組合員である場合は実務上非常に多く
    、不当労働行為との関係が問題となる事例は多い)
●人事権の行使として降格か懲戒処分としての降格かという論点も
 あり、裁判所は1,2審ともに前者と判断している。
 1審は主観説、2審は「職務上の能力・適性に欠けているという観
 点から降格したもの」と述べていることから、客観説にたっていると
 思われる。
 懲戒処分としての降格も規程されている場合には、人事権の行使
 なのか否か、その区別を意識しておくことが実務上重要である
 (ただ、実際のところ判断基準に有意な差があるとは思えない) 

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退職後の競業行為と退職金の不支給

【東京コムウェル事件・東京地裁平成22年3月26日・労経2073】
○競業会社の代表取締役に就任した元従業員の退職金請求は理由
 がないとした例
○同種の事案は多く、事例によって結論は分かれるが、本件は経営
 側に有利な事例判例として使える
○本件では以下のような事実が認定されている 
 ・退職後の競業避止義務違反等の場合を退職金不支給とする退職
  金規程の存在
 ・問題となっている競業会社は本件被告会社の元従業員を中心に
  構成されており、顧客の引き抜き等をめぐってトラブルとなることが
  あった(被告会社と競業会社は元々敵対関係にあった)
 ・原告は、退職後4ヶ月後に競業会社に就職し、退職後6ヶ月も
  経ずして代表取締役に就任
 ・原告は被告会社の支店長等を歴任し、前記退職金規程の存在や
  競業会社との敵対関係を十分に認識していた
 ・退職後真摯に求職活動を行ったとはいえない
 ・退職金の金額1500万円
○背信性は高く、退職金不支給は当然と思われる

(参考判例)
【東京コムウェル事件・東京地裁平成20年3月28日判決
 ・労経速2015-31】
○退職後6ヶ月間の競業避止義務(就業規則及び退職時の誓約書
 によるもの)に違反して退職後4ヶ月後に同業他社に就職した元従
 業員に対する、退職金全額不支給の効力が争われた事案
○退職金不支給条項には該当するが、業務中知り合った顧客に連
 絡したのは1名のみであるし、会社の利益や信用を損なう言動もな
 いので、退職金不支給は許されないと判断された事例
●懲戒解雇の際の退職金の全額不支給の有効性と同一の論点で
 あり、事例判断である。事案によっては不支給が許される場合もあ
 るのは当然である。
●参考
 1 競業避止と退職金不支給に関しては、ある程度具体的にかつ
   
限定的に規定した方が実効性が確保できるのではないか
   (例 同業他社に就職してかつ、担当顧客を引き抜く行為を行う
      場合は、全額不支給にする)
 2 競業避止義務の設定については、就業規則の周知、不利益変
   更等の論点も生じることに留意が必要。
   なお、本件の場合、不利益変更については合理性が認められて
   いる。

 

 

 

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支給基準変更による通勤手当減額

【古河運輸事件・平成22年3月18日判決・労1005-79】
○通勤手当の支給基準を変更し、従前半年7万8610円であった通勤
 手当が2万2800円に減額となった事案。不利益変更の合理性の
 有無が問題となった。
○裁判所は合理性を肯定
 ・原告は自動車通勤であったが、便宜上公共交通機関の6ヶ月定期
  代として過剰な額を支給されていたものであり、公共交通機関利
  用者と不公平感解消の必要性があった(変更の必要性あり)。
 ・新支給基準は自動車通勤者に対する実費支給を意図して設定され
  たものであって、一応の合理性がある
 ・実費支給を超える、本来受給できない部分が控除されるに過ぎず
  不利益は大きくない
●不利益変更に関する単なる事例判例であるが、よくありがちな事案
 であって参考となる。

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入社時の会社からの給付金と返還請求

【東亜交通事件・大阪高裁平成22年4月22日・労1008-15】
○タクシー会社が入社した乗務員に対して
  1 2種免許のための教習所の授業料(21万5250円)
  2 大阪でタクシー運転をするのに必要な研修費用12万円
  3 就職支度金20万円
 を給付して、合計53万5250円を消費貸借契約とし、800日の乗務
 日数を満たせば返済義務を免除するとしていた事案
○裁判所は1は元々従業員が負担すべき費用として有効、
 2,3は賃金的性格を有するとして無効と判断しているが、これは
 本件について、
 ・2,3についての求人広告の内容が誤解を生じさせる内容であった
 ・面談時の説明も不足
 ・金銭消費貸借契約書に内訳の記載もなかったこと
 等の事情があったが故の事例判断であり(信義則違反で判断して
 いる)、一般論として2,3を無効と判断したものではない。
○タクシー乗務員の2種免許費用の返還条項が労基法16条に違反
 しないと判断したコンドル馬込交通事件も参考となる。

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«会社分割と労働契約承継に関する最高裁判決