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2008年9月

整理解雇でありかつ普通解雇である場合の判断方法

【千年の杜ほか事件・大阪地裁平成19年11月30日判決・労判956-5】
○事案
 業績建て直しのため、同業他社の有能とされる社員を高額報酬で中途採用したが
 思うように実績が上がらず業績が低迷し、事業縮小に伴って解雇した事案。
 単なる事例判例。
○経営悪化とともに、営業成績の不良をも理由として解雇しているので、整理解雇と
 普通解雇が並存している点が興味深い。
 裁判所は、基本的には整理解雇の枠組みに従って判断しつつ、人選の合理性の判断
 において成績が不良だったか否かを検討している。
 同じ論点に関する裁判例として、高島屋工作所事件(大阪地裁平成11年1月29日)、
 PWCファイナンシャル・アドバイザリー・サービス事件(東京地裁平成15年9月25日)
 などがある。前者は総合的に判断し、後者は別々に判断している。
○このほか、もともと経営再建のために敢えて高額で中途採用したという経緯があるとの
 理由で、人員削減の必要性を認めつつ、整理解雇の必要性を否定している点も興味
 深い。

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従業員の主張する残業時間の信用性

【オフィステン事件・大阪地裁平成19年11月29日労判956-16】
○事案
 単なる未払い残業請求事案に関する事例判例。
 従業員が自ら作成していた出退勤表の記載の信用性が問題となった。
○一定の信用性があるとしながら、従業員の主張する残業時間の3分の2のみを
 残業時間として認定したこと、及び信用性を否定する方向の判断ファクターは興味深い。
 ・1週間分など、まとめて記載することがあったことは従業員自身も認めていた
 ・残業していたと主張する時間において、会社外のパソコンから取引先にメールを
  送信していた(会社に存在していなかった)ことが何回かある
 ・残業していたと主張する時間において、飲食店で飲食していたことが何回かあった。
○残業しているのを見たことがない等の、具体性を欠く他の社員の証言類はあまり重視
 されていない。
●従業員が現実より過大な残業時間を主張してくる事案は実際には極めて多いが、
 その場合、虚偽であることの立証がポイントとなる。
 本来は、経営者側が時間管理を適正に行うべきであろうが、それが不可能な場合、
 せめて時々は本当の残業時間を正確に計測し、客観的証拠(一種のアリバイ)を残し
 ておくことが重要であろう。
●タイムカードを基本にするという裁判所の傾向等については、本労判の解説引用の裁
 判例が参考となる。

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自主退職の有効性が争われた事案

【日本旅行事件・東京地裁平成19年12月14日】
○事案
 役職定年を迎えた従業員が、会社提案の移籍では単身赴任が解消されないとして
 移籍を拒否し、自主退職した事案。
 実際は、そのままプロフェショナル職として会社に残るという選択肢もあったのであるが、
 従業員は移籍を拒否した以上退職せざるを得ないと誤信して自主退職したものであり、
 錯誤無効を主張した。
○裁判所は、誤信を認めたが、就業規則や労使協定に、役職定年後には、移籍かプロ
 フェショナル職に残るかの選択肢があることが明記されているので、重大な過失がある
 として、錯誤無効を認めなかった。
●懲戒解雇になると言って自主退職させた場合に、錯誤無効等が問題となるケースが
 多いが、役職定年の場合等でもこの種のトラブルが発生しるうことを改めて認識させ
 られるケースである。

 

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偽装請負と発注者の直接雇用(その2)

【松下プラズマディスプレイ事件・大阪高裁平成20年4月25日判決・労経速2009-7】
【経営法曹159-29】
○労働者が請負会社を退職し、発注者の契約社員となった場合において、その雇い
 止めの可否が問題となった事例。
○新聞報道では、偽装請負をしていると労働者と発注者の間の直接雇用が認められる
 かの如く報道され、労働組合等はそのように宣伝しているが、実際は既に発注者と
 直接雇用契約をしていた事案であり、その雇い止めが問題となった事案である。
 裁判所は雇い止めを無効と判断したが、その理由の1つとして、偽装請負の時代から
 従業員と発注者との間に黙示の直接雇用契約があったとい認定している
 に過ぎない。
○この論点は、よく労働者側が主張するものである。
 1 法人格否認の場合
 2 又は、意思表示の合致があったと認められる特段の事情がある場合
 でなければ、容易には黙示の契約の存在は認められない。
 2については、供給元(派遣元や請負会社)の料金(派遣料金や請負代金)決定
 の実態(適正利益を確保して供給元が独自に決定しているのか、資本関係の有無、供
 給先以外との取引の有無(売上割合)、勤務場所を特定して募集しているか(募集代行
 という実体があるか)、採用過程(採用試験の場所や面接に供給先は関与しているか)
 労働者の労働条件決定過程(供給元が独自の意思決定を行っているか)、労働者の雇
 用管理(勤務時間、有給管理、契約書の管理業務、健康管理、教育訓練、職場
 面談等)を供給元が行っているか等のがファクターとして検討される
 (以上の要件については、
  マイスタッフ(一橋出版)事件・東京高裁平成18年6月29日判決・労経速1944-18
  伊予銀行・いよぎんスタッフサービス事件・高松高裁平成18年5月18日判決
  労判921-33参照)
○本件の裁判所は、事実上の使用従属関係、労務提供関係、賃金支払い関係が
 あるかどうか、この関係から両者間に客観的に推認される黙示の意思の合致がある
 かどうかによって判断する、とした上で、極めて緩く黙示の意思の合致を認めている。
 裁判所は「(発注者が)採用、失職、就業条件の決定、賃金支払等を実質的に行(った)
 」 と、上記2番のファクターを満たしているかの如く述べるが、甘い認定といわざるを得
 ない。
○批判1
 松下とパスコとの間での委託料金はパネル1台当たり幾らという設定がされており、
 従業員がパスコから受領していた賃金とは直接の関連性を有ていない。
 にもかかわらず、従業員がパスコから「給与等の名目で受領する金員の金額を実質的
 に決定する立場にあった」というのは論理の飛躍も著しい。
○批判2
 そもそも、請負会社に就職した従業員が、当初から松下の従業員だという意思を持って
 いたことなどおよそ考えられない。労働契約も契約である以上、両当事者の意思の合
 致が必要であり、その旨は今回の労働契約法でも明らかとなっている(6条で「合意」
 とある)。当事者の意思からおよそかけ離れた「意思」を裁判所が勝手に推認した勇み
 足の判断という印象を持たざるを得ない。
 ←「客観的に推認される黙示の意思の合致」というのは、当事者意思を超えた
  規範的な契約解釈であるという理屈を展開する論文もあるが(労判966-5)、
  賛成できない(21年1月15日追記)
○なお、裁判所も認定が甘いことを自覚していると思われ、次のような理論的補強を
 している。
 1 当初の契約が開始された頃は、製造派遣が禁止されていたので、適法な労働者
   派遣はあり得なかった。
 2 発注者が直接指示をしていたので、請負でもない
 3 とすれば、当初の契約は、派遣でも請負でもなく、労働者供給として違法・無効
   である。
 4 その後製造派遣は解禁されたので、派遣法違反の派遣(これは労働者供給では
   ない)と見る余地もあるが、契約当初の違法・無効を引き継いでいる。
 5 契約が無効であるにもかかわらず、労働者が松下で働いていたとすれば、それは
   雇用契約しかない
 要するに、本件では、製造派遣が禁止されていた時代に契約が開始された、という
 点がポイントであり、それと4番の「引継ぎ」理論があいまって、強引な結論を導いて
 いると思われる。
○しかし、違法な労働者供給である=職安法違反であるという事実が、何故黙示の契約
 に結びつくのか、その理論的理由は明らかではない
 「同法違反というだけであって、未だこれを公序良俗違反とまでいう事情はない」
 といっている裁判例(JR西日本・大誠電気工業事件・大阪地裁平成13年3月9日)
 あるいは、職安法44条違反は「労働者供給者と労働者の間に実質的な労働契約が
 ないことを示す1資料に過ぎない」と述べる裁判例(大阪空港事業・関西航業事件・
 大阪高裁平成15年1月30日判決)もあり、職安法違反と黙示の労働契約論の連結を
 否定するのが、裁判例としては通常ではないかと思われる(労判966-5論文参照)。
 21年1月15日追記
●結論
 法理論的に精緻な判決ではなく、先例としての価値は低い。
 ただ、リスクを避けるためには、前述の判断ポイントのファクターに留意してガードを
 固めておく必要がある。
 また、理論的には不透明であるが、派遣が認められない分野での偽装請負の場合は、
 労働者供給として契約が無効とされるリスクがある(そうなると、本件のように、黙示の
 労働契約を甘く認定される危険性がある)ことを検討しておくべきである。
平成21年12月18日、最高裁は大阪高裁の判決を破棄して、
 雇用責任を否定。法理論的には当然の判決である。

 

 
 

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偽装請負と発注者との直接雇用

【ナブテスコ(ナブコ西神工場)事件・神戸地裁明石支部・平成17年7月22日・労判901
 -21】
○事案
 偽装請負であるとして、是正指導を受けた請負業者が請負契約を終了させることとして、
 従業員を雇止めした事案。従業員は発注者との間に直接の雇用契約があるとして、地
 位確認の訴訟を提起した。
○発注者との間の黙示の労働契約の存在を肯定した数少ない判例の1つ。
○この論点は、よく労働者側が主張するものである。
 1 法人格否認の場合
 2 又は、意思表示の合致があったと認められる特段の事情がある場合
 でなければ、容易には黙示の契約の存在は認められない。
 2については、供給元(派遣元や請負会社)の料金(派遣料金や請負代金)決定
 の実態(適正利益を確保して供給元が独自に決定しているのか、資本関係の有無、供
 給先以外との取引の有無(売上割合)、勤務場所を特定して募集しているか(募集代行
 という実体があるか)、採用過程(採用試験の場所や面接に供給先は関与しているか)
 労働者の労働条件決定過程(供給元が独自の意思決定を行っているか)、労働
 者の雇用管理(勤務時間、有給管理、契約書の管理業務、健康管理、教育訓練、職場
 面談等)を供給元が行っているか等のがファクターとして検討される。
 (以上の要件については、
  マイスタッフ(一橋出版)事件・東京高裁平成18年6月29日判決・労経速1944-18
  伊予銀行・いよぎんスタッフサービス事件・高松高裁平成18年5月18日判決
  労判921-33参照)
○本件の裁判所は、上記ファクターのうち、請負会社が経済的に独立して請負業務を行っ
 ていなかったという点を重視しているように思われる(労働者が残業しても請負代金は変
 わらず、その分は請負業者が負担しており、請負業者としての採算を度外視していたと
 言及されている)。
○その他にも、発注者の完全子会社であるとか、発注者の事業所内に事業所がある
 とか、採用試験を発注者の工場で行ったとか、契約の際に発注者が立ち会っていた等
 の事情を認定している。
 しかし、それらだけでは決定的なファクターにはならない。実際、伊予銀行・いよぎんス
 タッフサービス事件は、派遣会社が派遣先の完全子会社であり、発注者の責任者が事
 前面接を行っていたという事情があるし、マイスタッフ(一橋出版)事件では採用面接を
 派遣先の会議室で行って派遣先の担当者(派遣元と兼任)が面接で質問をした等
 の事情があるが、両事件とも黙示の契約の成立を否定している。
●特殊な事例判例という位置づけで良いのではないか。
 権威ある裁判所の判断でもなく、先例的価値は高いとは思われない。
 ただ、リスクを避けるためには、上記具体的ファクターの不利な要素を1つでも減らして
 おくことが必要であると考える。
 特に、企業としての独立性(採算等)や採用決定過程等は重要なファクターであり、
 ガードを固めておくべきであろう。

 


 


 
 

 

 

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契約社員の労働条件の変更

【日本ヒルトンホテル事件(本訴)・東京高裁平成14年11月26日・労判843ー20】
○ホテルの配膳人(日々雇用)の雇い止めが認められた例。
○ホテル側が労働条件を切り下げて条件を提示し、従業員がそれに応じないので
 雇い止めをしたという事案であった。
○契約社員の契約更新の際に労働条件を引き下げて呈示し、従業員がそれを拒否
 すれば簡単に雇い止めが出来る、との誤解も多い。
 しかし、本裁判例は以下の点を押さえて理解する必要がある。
 1 食事や休憩時間を賃金の対象にしない等、法定の労働条件に近づける
   という趣旨の不利益変更であること、変更には大多数の者が同意していること、
   従って、不利益変更自体の合理性は1審2審とも認められていること
 2 本人ら自らが正社員となることを希望せず、日々雇用という身分に甘ん
   じていたこと

 

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休職期間満了の解雇と解雇制限

【東芝事件・東京地裁平成20年4月22日・労新2695】
○うつ病による休職期間満了で従業員を解雇したが、うつ病は業務上の理由によるもの
 であるので労基法19条1項の解雇制限によって無効であるとして訴えられた事例。
○裁判所は業務上の疾病であると認定した上で、解雇無効とした。
●業務上の疾病であると認定されたなら、致し方ない判断である。ただ、解雇後に裁判上
 で業務上の疾病であると判断され、結果として解雇無効となることがある、というリスクを
 認識しておく必要がある。

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職種限定特約が認められた場合と他職種への配転

 【東京海上日動火災保険(契約係社員)事件・労判941ー1】
○損害保険会社の外勤職員(RA)について、その制度の廃止に伴い、退職の募集を行う
 一方、残った従業員に対して職種を変更した上で継続雇用すると提案・通知したが、不
 満をもつ複数の従業員が会社を訴えた例。
○RAについては、賃金体系や職務内容、RAから内勤への転換の実績、入社時の説明
 等から、職種限定特約の存在を認めた。
○しかし、職種限定特約がある場合でも、採用経緯と当該職種の内容、職種変更の必要
 性の有無・程度、変更後の業務内容の相当性、労働者の不利益の有無・程度、代替措
 置等を考慮し、他職種への配転を命ずることができる余地があるとした例(あてはめに
 おいて、配転は無効と判断している)。
●会社として、職種を変更したり、勤務地を変更したりする可能性があるのであれば、職
 種限定や勤務地限定と言われないように留意する必要がある。就業規則のみならず、
 採用時の説明や実績等も重要なファクターである。
●また、職種限定の特約が認められた場合は、個別同意ない限り職種変更はできないと
 いうのが一般的な理解であるが、一定の合理性が確保できる場合には個別同意のない
 職種変更を認めるという判断は画期的である(会社に有利)。
●なお、職種限定の特約がなくても、業務の系統を全く異にする職種への異動(事務職か
 らナースヘルパー等)は、業務上の特段の必要性及び特段の合理性が必要、としてハー
 ドルを上げている裁判例もある(【直源会相模原南病院事件・最高裁平成11年6月11
 日】)ので留意が必要である。

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