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2009年1月

年俸制で年俸額の合意に至らなかった場合

【日本システム開発研究所事件・東京高裁平成20年4月9日・労新2702-14】
【労経速2022-3】21年1月15日追記
○従業員が、一方的に年俸額を減額されたとして従前の賃金との差額を請求した事案
○例年6月に個人業績評価と非年俸者の改定基準表を参考にして役員が目安額を提示
 して、役員2人と本人が個別交渉して年間支給額と支払い方法を決定してきたが、平成
 15・16年度は個別交渉を申し入れずに平成14年度の賃金を凍結して支給し、平成17
 年度は合意に至らなかったため暫定額を支給した(減額)。
○本判決は「期間の定めのない雇用契約における年俸制において、使用者と労働者
 との間で、新年度の賃金額についての合意が成立しない場合は、年俸額決定のための
 成果・業績評価基準・年俸額決定手続・減額の限界の有無・不服申立手続等が制度化
 されて就業規則等に明示され、かつ、その内容が公正な場合に限り、使用者に評価決
 定権がある」と判示し、本件ではそのような制度化がされていないので、前年度の年俸
 額をもって、次年度の年俸額とせざる得ないと判断している(減額は無効と判断)。
○しかし、裁判所の上記判断は厳しすぎるといわざるを得ず(本来は裁量権の逸脱か
 否かで判断すれば足るはず)、法的根拠も明らかでないので、大変問題の多い判決で
 ある。
 なお、年俸額の決定権が使用者にあるのかについて、菅野教授は使用者に評価決定
 権があるとしながら、目標の設定とその評価についての手続きと苦情処理の手続きが
 公正なものとして制度化されていることがその前提として必要であるという趣旨を述べ
 ている(菅野8版ー222)。21年1月15日追記
年俸額が合意に至らなかった時の紛争が散見されるので(中山書店事件・明治ドレス
 ナー・アセットマネジメント事件等)、年俸制を採用する場合には、年俸額で合意に至ら
 なかった場合の手続きを一定整備しておくことが必要と思われる。
 制度設計の場合は本判決で指摘されているファクタが参考となる。

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中途採用者の内定取り消し

【インフォミックス事件・東京地裁平成9年10月31日・労判726-37】
○ヘッドハンティングによりスカウトした労働者の内定取り消しの有効性判断において
 整理解雇の枠組みを用いて無効と判断された例
○入社2週間前になって事業計画の見直しがあり、配属を予定していた部門自体が存続
 しなくなったため、
 1 職種変更
 2 基本給3ヶ月分の補償による入社辞退
 3 試用期間(3ヶ月)後の退社
 のいずれかを選択して欲しいと呈示したが、拒否したため、内定を取り消した。
○争点1
 職種変更命令拒否を理由とする内定取り消し
 入社前でも会社は人事権に基づき職種を変更する権限を有するが、本件では単に
 条件提示したに過ぎず、職種を確定的に変更する意思があったとは認められない
 と判断されている。
○争点2
 整理解雇の法理に照らしてみた場合、人員削減の必要性、回避努力(希望退職・
 補償の申し出・職種変更の打診をしている)・人選の合理性(内定者を選定したことに
 は合理性がある)は認められる
 しかし、自らスカウトしたという事情、既に前職を退職しているという事情も考慮した
 場合、労働者の納得を得られるような十分な説明をしたとはいえず、会社の対応は
 誠実さに欠くとして、内定取り消し無効と判断されている。
●一般的な判例ではないが、内定取り消しの場合は、それなりの回避努力をしたと主張
 できるファクターを揃え、誠意を見せて十分説明する等のプロセスを踏んだ方が安全
 である。

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競業避止義務違反と違約金請求

【ヤマダ電機事件・東京地裁平成19年4月24日判決・経営法曹159-15】
○退職時に作成した誓約書に違反して同業他社(ケーズデンキ)に就職した元従業員に対
   する損害賠償請求事案。誓約書では、「損害賠償違約金として、退職金を半額に減額
 するとともに、直近の給与ヶ月分に対して、法的措置を講じられても一切異議は申立て
 ません」と記載されていた。
○裁判所は、退職金の50%及び給与1ヶ月分の違約金請求を認めた。
○当初、派遣会社に登録して、ケーズデンキの子会社に派遣されるという形で、転職して
 いる。明らかに脱法的な手法であり、実務においても注意を要する。
 なお、裁判所はこの点について、子会社であって役員も共通するなど密接な関係にある
 ので、同業者に該当するし、もともと当該子会社に派遣されることを前提として派遣社員
 として登録して稼動したことは、「転職」に該当すると判断している。
○競業避止条項の有効性として、「目的」というファクターがある。
 すなわち、単に競争者の排除・抑制を目的とする場合には公序良俗に反する(フォセコ・
 ジャパン・リミテッド事件・奈良地裁昭和45年10月21日)
 正当な目的に基づくものかどうかは、秘密保護の必要性との相関関係と思われる。
 本件の場合は、以下のようなファクターから目的の正当性が認定されている。
 ○本件被告は、立場上原告の全社的な営業方針・経営戦略等を知ることができた
 ○原告固有のノウハウを持っていたからこそ、ケーズデンキは被告を給与面で
   優遇して採用した
 ×原告が競業避止条項によって保護することを目的とする固有のノウハウとは何か
  具体的には明らかにしていない
  (しかし、競業避止条項違反の態様が軽微でないことなどを挙げて、立証を緩和
   している)
競業避止義務の範囲について、裁判所が範囲を限定することはよくある
 本件の場合、「同業者」とは家電量販店に限ると限定的に解釈している。
誓約書の提出過程
 あまり強制にわたるものであれば、強迫取り消し・錯誤無効等の主張が出てくる可能性
 があることに留意が必要。
 本件では、公序良俗違反か否かの1ファクターとして提出過程を検討しているが、あまり
 理論的ではない。
○競業避止条項と代償措置
 従来の裁判例において、代償性は絶対的に必要なものとはされていない
 本判決も不要説に立脚しているが、損害額の算定で考慮していると判事している。
○義務違反の場合の効果(その1 退職金の50%の減額)
 自己都合退職によって減額率を定めているなど、退職金は労働の対象に加えて功労
 報償的な性格もあると認定された上で、退職金の減額条項が有効と判断されている。
 なお、その前提として、16条に違反しないかという論点もあり、三晃社事件(最高裁昭和
 52年8月9日・労経速958-25)は、「退職金の定めは、制限違反の就職をしたこと
 により勤労中の功労に対する評価が減殺されて、退職金の権利そのものが一般の自己
 都合による退職金の場合の半額の限度においてしか発生しないこととする趣旨である
 と解すべきであるから」として、労基法16条に反しないと判断している。
 もともと発生していないので、労基法16条の違約金ではないという判断である。
 実務的には退職金には功労報償的な性格を明確にしておくこと、確定的に発生した
 退職金から一定額を減じるという制度にしないこと、の2点が肝要である
○義務違反の場合の効果(その2 給与6ヶ月分の違約金)
 給与6ヶ月分に相当する額を違約金として請求するという誓約書の内容について、1ヶ月
 分の違約金を有効として認めているが、16条に反するのではないかという疑問(いった
 ん確定的に発生しているので、前述の三晃社事件のような論理で有効とすることはで
 きないはず)、また賠償額の予定は裁判所の裁量で減額できないという民法420条1項
 に反するのではないかという疑問がある。
 ←本件は「退職の自由の制約」という側面がないので、労基法16条の適用外で
   あるという考え方も可能(21年3月25日補足)   
 損害の立証は困難ではあるが、民訴法248条によって裁判所が損害額を算定する
 場合もあるので(日本コンベンションサービス事件・大阪高裁平成10年5月29日・労判
 745-42)、必ずしも違約金の定めに拘る必要はない。

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退職金と貸付金の相殺

【山一證券事件・東京地裁平成13年2月23日判決・労新2709-15】
○退職社員が在職中に自社株購入のために互助会から借り入れた借入金債務との相殺
 については、「貸付の申し込みの際に、それぞれ原告らが退職するときは、退職時に
 おける原告らの本件貸付金に係わる残元本およびこれに関する利息を一括して弁済
 することに合意していた」として、自社株購入融資制度において当然に予定されたもの
 であり、退職社員らの自由意思により行われたものであるから、相殺の合意は有効で
 あると判断された。
○退職金が確定的に発生して、そこからの控除という形は原則不可。
 例外的に「同意を得てした相殺は24条に反しない」(日新製鋼事件・最高裁平成2年11
 月26日)、というのが現在の考え方(同意があっても強行法規たる24条に反するのでは
 ないかという菅野教授をはじめとする反対説もある)。

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高齢者の再雇用拒否

【日通岐阜運輸事件・岐阜地裁平成20年9月8日・労経速2016-26】
○再雇用基準を満たしていないとして再雇用を拒否した事案。再雇用基準の内容の
 適法性が正面から争点となっている。
○原告は建交労の組合員。
○再雇用基準については、多数組合との労働協約で設定している。
○再雇用規定の内容の適法性について
 ・過去1年間で所属セクション内での順応、セクション内のチームワークの維持に問題が
  ないこと/過去1年間で会社資産である車両、備品の取扱いに問題がないこと
  という内容は抽象的ではない。
 ・1回でもCランクと査定されれば再雇用を拒否するというのは、一定以上の能力を要求
  することは不合理ではないし、C評価は従業員の20%に留まるので人事評価基準も
  相当な基準である
  賞与の査定について、具体的内容を労働者に明らかにしていないので、客観性も予想
  可能性もないと主張するが、個人査定の指標があるので客観性を欠くものとはいい難
  としている。
●再雇用拒否した場合には、再雇用基準の内容が抽象的であるとか、評価方法が恣意
  的である等して争われる可能性がある。入念に守りを固める必要がある。

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グループ企業への転籍と労働条件の不利益変更

【N社事件・大阪地裁平成20年9月26日判決・労経速2021-3】
○グループ内不採算部門の経営改善のため組織を再編成する中で、N社が系列の下請け
 であるY運輸の従業員をN社に転籍させた事案。
 転籍後の4ヶ月後から従前の賃金より下がったため、従業員が従前賃金との差額の支
 払いを求めてN社を訴えた事案。
○原告は、転籍する際、Y運輸での賃金を保証するとの約定があったと主張
○裁判所は保証の約定を認めている。事実認定上のプラスマイナスファクターは次のと
 おり。
 ×「保証する」との原告の主張については抽象的なレベルに留まり、
  具体的な計算方法  等の合意があったとは原告自身も主張していない。
 ×解雇か移籍かの2者択一を迫られる状況であった
 ×転籍によって、充実した福利厚生制度が利用でき、健康保険料の本人負担が少なく
   なるというメリットがあった
 ×転籍後の労働条件については契約書が存する
 ○賃金の低下、更に一時金の金額が不確定となることが見込まれる移籍後の賃金体
  系について従業員や組合は何ら抵抗・抗議・交渉の形跡がないのは格別の理由が
  あったとしか考えられない
○事例判例であり、裁判所の認定も非常に荒いが、転籍の際の説明内容の明確さとの
  重要性を再認識させられる事案である。

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定額残業代に関する事例判例

【アップガレージ事件・東京地裁平成20年10月7日・労経速2020-13】
○よくあるサービス残業代請求の事案であり、事案としては特に特異なものではない。
○会社は販売手当てが定額残業代であると主張
 割増賃金を払うよりも販売手当を支払う方式のほうが従業員の勤労意欲が高まり
 結果的にも従業員の利益になるという考え方から、販売手当(売上目標達成手当て
 ・粗利益額目標オーバー手当て等)を支給していたものという主張をしたが、
  いずれも各店舗の売上等に応じて支給されるものであるという点から、割増賃金と
  同様の性質を有するものとはいい難いと判断された
  さらに、販売手当が時間外勤務手当てに代わるものであるという説明まではしていない
  とも認定されている

○なお、原告は以下の遅延損害金等を請求している。
 サービス残業系で判決となる場合のリスクの1つとして十分考慮しなければならない。
 1 支払期日から退職した日の後の賃金支払い期まで年6パーセント
   (商事法定利率)
 2 上記賃金支払い期の翌日から支払い済みまで14.6%
   (賃金の支払いの確保等に関する法律6条)  http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/idxselect.cgi?IDX_OPT=1&H_NAME=%92%c0%8b%e0&H_NAME_YOMI=%82%a0&H_NO_GENGO=H&H_NO_YEAR=&H_NO_TYPE=2&H_NO_NO=&H_FILE_NAME=S51HO034&H_RYAKU=1&H_CTG=1&H_YOMI_GUN=1&H_CTG_GUN=1

  3 付加金及びそれに対する判決確定の日から支払い済みまで
   の遅延損害金
   →本件では悪質性が否定されているので認めていない

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