【松下プラズマディスプレイ事件・大阪高裁平成20年4月25日判決・労経速2009-7】
【経営法曹159-29】
○労働者が請負会社を退職し、発注者の契約社員となった場合において、その雇い
止めの可否が問題となった事例。
○新聞報道では、偽装請負をしていると労働者と発注者の間の直接雇用が認められる
かの如く報道され、労働組合等はそのように宣伝しているが、実際は既に発注者と
直接雇用契約をしていた事案であり、その雇い止めが問題となった事案である。
裁判所は雇い止めを無効と判断したが、その理由の1つとして、偽装請負の時代から
従業員と発注者との間に黙示の直接雇用契約があったとい認定している
に過ぎない。
○この論点は、よく労働者側が主張するものである。
1 法人格否認の場合
2 又は、意思表示の合致があったと認められる特段の事情がある場合
でなければ、容易には黙示の契約の存在は認められない。
2については、供給元(派遣元や請負会社)の料金(派遣料金や請負代金)決定
の実態(適正利益を確保して供給元が独自に決定しているのか、資本関係の有無、供
給先以外との取引の有無(売上割合)、勤務場所を特定して募集しているか(募集代行
という実体があるか)、採用過程(採用試験の場所や面接に供給先は関与しているか)
労働者の労働条件決定過程(供給元が独自の意思決定を行っているか)、労働者の雇
用管理(勤務時間、有給管理、契約書の管理業務、健康管理、教育訓練、職場
面談等)を供給元が行っているか等のがファクターとして検討される。
(以上の要件については、
マイスタッフ(一橋出版)事件・東京高裁平成18年6月29日判決・労経速1944-18
伊予銀行・いよぎんスタッフサービス事件・高松高裁平成18年5月18日判決
労判921-33参照)
○本件の裁判所は、事実上の使用従属関係、労務提供関係、賃金支払い関係が
あるかどうか、この関係から両者間に客観的に推認される黙示の意思の合致がある
かどうかによって判断する、とした上で、極めて緩く黙示の意思の合致を認めている。
裁判所は「(発注者が)採用、失職、就業条件の決定、賃金支払等を実質的に行(った)
」 と、上記2番のファクターを満たしているかの如く述べるが、甘い認定といわざるを得
ない。
○批判1
松下とパスコとの間での委託料金はパネル1台当たり幾らという設定がされており、
従業員がパスコから受領していた賃金とは直接の関連性を有ていない。
にもかかわらず、従業員がパスコから「給与等の名目で受領する金員の金額を実質的
に決定する立場にあった」というのは論理の飛躍も著しい。
○批判2
そもそも、請負会社に就職した従業員が、当初から松下の従業員だという意思を持って
いたことなどおよそ考えられない。労働契約も契約である以上、両当事者の意思の合
致が必要であり、その旨は今回の労働契約法でも明らかとなっている(6条で「合意」
とある)。当事者の意思からおよそかけ離れた「意思」を裁判所が勝手に推認した勇み
足の判断という印象を持たざるを得ない。
←「客観的に推認される黙示の意思の合致」というのは、当事者意思を超えた
規範的な契約解釈であるという理屈を展開する論文もあるが(労判966-5)、
賛成できない(21年1月15日追記)。
○なお、裁判所も認定が甘いことを自覚していると思われ、次のような理論的補強を
している。
1 当初の契約が開始された頃は、製造派遣が禁止されていたので、適法な労働者
派遣はあり得なかった。
2 発注者が直接指示をしていたので、請負でもない
3 とすれば、当初の契約は、派遣でも請負でもなく、労働者供給として違法・無効
である。
4 その後製造派遣は解禁されたので、派遣法違反の派遣(これは労働者供給では
ない)と見る余地もあるが、契約当初の違法・無効を引き継いでいる。
5 契約が無効であるにもかかわらず、労働者が松下で働いていたとすれば、それは
雇用契約しかない
要するに、本件では、製造派遣が禁止されていた時代に契約が開始された、という
点がポイントであり、それと4番の「引継ぎ」理論があいまって、強引な結論を導いて
いると思われる。
○しかし、違法な労働者供給である=職安法違反であるという事実が、何故黙示の契約
に結びつくのか、その理論的理由は明らかではない。
「同法違反というだけであって、未だこれを公序良俗違反とまでいう事情はない」
といっている裁判例(JR西日本・大誠電気工業事件・大阪地裁平成13年3月9日)
あるいは、職安法44条違反は「労働者供給者と労働者の間に実質的な労働契約が
ないことを示す1資料に過ぎない」と述べる裁判例(大阪空港事業・関西航業事件・
大阪高裁平成15年1月30日判決)もあり、職安法違反と黙示の労働契約論の連結を
否定するのが、裁判例としては通常ではないかと思われる(労判966-5論文参照)。
21年1月15日追記
●結論
法理論的に精緻な判決ではなく、先例としての価値は低い。
ただ、リスクを避けるためには、前述の判断ポイントのファクターに留意してガードを
固めておく必要がある。
また、理論的には不透明であるが、派遣が認められない分野での偽装請負の場合は、
労働者供給として契約が無効とされるリスクがある(そうなると、本件のように、黙示の
労働契約を甘く認定される危険性がある)ことを検討しておくべきである。
●平成21年12月18日、最高裁は大阪高裁の判決を破棄して、
雇用責任を否定。法理論的には当然の判決である。
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