配転

役職・職位を引き下げる降格の合法性が認められた事例

【東京都自動車整備振興会事件・東京高裁平成21年11月4日
 労判996-13、下100421】
○電話や窓口での応対が悪いと苦情の多かった職員について、
 副課長から係長への降格処分を行った事案
 ちなみに、当該職員は組合の書記長でもある
○裁判所は降格処分について裁量権の逸脱または濫用はないと判断
 ・他の職員を指導する地位にあった
 ・にもかかわわらず窓口対応・電話対応の悪さが会員や職員の間
  で問題となり、会議でも何度も取り上げられるまでに至った
 ・そのようなものを従前の役職にとどめておくことは組織上の観点
  からふさわしくない
 ・1ランク降格に過ぎず、経済上の不利益も少ない(3862円に過ぎ
  ない)
●単なる事例判決であるが、以下の点で参考となる
 1 人事権の行使としての降格について、業務上の必要性と不利
   益の比較考量という枠組みで判断していること
 2 業務上の必要性を判断する際に組織上の観点を肯定している
   こと(1審判決は、降格しても窓口対応があるので必要性がな
   いと判断しているが、問題社員を上位職においておくこと自体が
   組織上問題であるのは当然であって、1審判決は明らかに
   非常識である)
 3 処分正当と認めるに足る根拠事実が十分であれば不当労働行為
   意思は否定されると判断している点
   (態度の悪い問題社員が組合員である場合は実務上非常に多く
    、不当労働行為との関係が問題となる事例は多い)
●人事権の行使として降格か懲戒処分としての降格かという論点も
 あり、裁判所は1,2審ともに前者と判断している。
 1審は主観説、2審は「職務上の能力・適性に欠けているという観
 点から降格したもの」と述べていることから、客観説にたっていると
 思われる。
 懲戒処分としての降格も規程されている場合には、人事権の行使
 なのか否か、その区別を意識しておくことが実務上重要である
 (ただ、実際のところ判断基準に有意な差があるとは思えない) 

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会社分割と労働契約承継に関する最高裁判決

【日本アイ・ビー・エム事件・最高裁平成22年7月12日判決】
赤字=22年10月22日追記(下101021)
○分割無効の訴えの提訴権がない場合でも労働契約関係承継の
 効果を争い得る

○5条協議(商法等改正法附則5条1項)と7条措置(労働契約承継法
 7条)が不十分であるとして、労働契約承継の効力が争われた事案
○5条協議(個別協議)について
 「5条協議が全く行われなかったとき」及び「説明や協議の内容が
 著しく不十分であるため、法が5条協議を求めた趣旨に反することが
 明らかな場合」には労働契約承継の効力を争うことができる
 (無効になるとは判断していないし、会社分割の効力についても
  判断していない)
○7条協議(労働者全体の理解と協力を得る努力)について
 努力義務であって、これに違反したこと自体は労働契約承継の
 効力を左右しない(5条義務違反の有無を判断する一事情に過ぎ
 ない)

○7条措置や5条協議が法の求める趣旨を満たすか否かを判断
 するに当たっては、それが「指針」に沿って行われたものか否か
 も十分に考慮されるべき

○5条協議についての事実認定
 ・新設会社の経営見通しについて具体的な数値を回答しなかった
  こと(「経営の機密事項であるから答えられないが、現状では同業
  他社と同様にHDD事業部門の売上は低迷しているものの合併
  の強みを生かすことでメリットが得られる」という趣旨を説明)

  新設会社の将来の労働条件については新会社が判断する
  ことと回答したことは(問題ない)
 ・在籍出向の要求に応じなかったのも、相応の理由がある
 ・説明や協議の内容が著しく不十分であるため、法が5条協議を
  求めた趣旨に反することが明らかであるとはいえない
●当然の結論と思われるが、この分野はじめての最高裁ということで
 重要である。
●(参考)
 会社分割は包括承継であるので、会社分割後の労働条件変更は
 5条協議の対象にはならないのが大原則。ただし、新設会社に
 おいて賃金引下げがなされることが予め予定されていた
 ような例外的な事案においては、説明の対象となると述べる裁判
 例もある(EMIミュージック・ジャパン事件)。
 そのような事案においては説明するか(別に同意を得る必要はない
 のであるから、説明するデメリットはあまり無い)、あるいは不採算
 部門を残して採算部門を新設会社に移転するというスキームをと
 る(そうすれば不採算部門に残る従業員への説明義務は生じない)
 ことも一案と思われる。

●(参考)
 承継法を使う場合、異議権についての説明が不十分で異議を述べ
 る機会を逸したと言われないように留意しておく必要がある

 

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職種限定特約が認められた場合と他職種への配転

 【東京海上日動火災保険(契約係社員)事件・労判941ー1】
○損害保険会社の外勤職員(RA)について、その制度の廃止に伴い、退職の募集を行う
 一方、残った従業員に対して職種を変更した上で継続雇用すると提案・通知したが、不
 満をもつ複数の従業員が会社を訴えた例。
○RAについては、賃金体系や職務内容、RAから内勤への転換の実績、入社時の説明
 等から、職種限定特約の存在を認めた。
○しかし、職種限定特約がある場合でも、採用経緯と当該職種の内容、職種変更の必要
 性の有無・程度、変更後の業務内容の相当性、労働者の不利益の有無・程度、代替措
 置等を考慮し、他職種への配転を命ずることができる余地があるとした例(あてはめに
 おいて、配転は無効と判断している)。
●会社として、職種を変更したり、勤務地を変更したりする可能性があるのであれば、職
 種限定や勤務地限定と言われないように留意する必要がある。就業規則のみならず、
 採用時の説明や実績等も重要なファクターである。
●また、職種限定の特約が認められた場合は、個別同意ない限り職種変更はできないと
 いうのが一般的な理解であるが、一定の合理性が確保できる場合には個別同意のない
 職種変更を認めるという判断は画期的である(会社に有利)。
●なお、職種限定の特約がなくても、業務の系統を全く異にする職種への異動(事務職か
 らナースヘルパー等)は、業務上の特段の必要性及び特段の合理性が必要、としてハー
 ドルを上げている裁判例もある(【直源会相模原南病院事件・最高裁平成11年6月11
 日】)ので留意が必要である。

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