競業避止義務違反と違約金請求
【ヤマダ電機事件・東京地裁平成19年4月24日判決・経営法曹159-15】
○退職時に作成した誓約書に違反して同業他社(ケーズデンキ)に就職した元従業員に対
する損害賠償請求事案。誓約書では、「損害賠償違約金として、退職金を半額に減額
するとともに、直近の給与ヶ月分に対して、法的措置を講じられても一切異議は申立て
ません」と記載されていた。
○裁判所は、退職金の50%及び給与1ヶ月分の違約金請求を認めた。
○当初、派遣会社に登録して、ケーズデンキの子会社に派遣されるという形で、転職して
いる。明らかに脱法的な手法であり、実務においても注意を要する。
なお、裁判所はこの点について、子会社であって役員も共通するなど密接な関係にある
ので、同業者に該当するし、もともと当該子会社に派遣されることを前提として派遣社員
として登録して稼動したことは、「転職」に該当すると判断している。
○競業避止条項の有効性として、「目的」というファクターがある。
すなわち、単に競争者の排除・抑制を目的とする場合には公序良俗に反する(フォセコ・
ジャパン・リミテッド事件・奈良地裁昭和45年10月21日)
正当な目的に基づくものかどうかは、秘密保護の必要性との相関関係と思われる。
本件の場合は、以下のようなファクターから目的の正当性が認定されている。
○本件被告は、立場上原告の全社的な営業方針・経営戦略等を知ることができた
○原告固有のノウハウを持っていたからこそ、ケーズデンキは被告を給与面で
優遇して採用した
×原告が競業避止条項によって保護することを目的とする固有のノウハウとは何か
具体的には明らかにしていない
(しかし、競業避止条項違反の態様が軽微でないことなどを挙げて、立証を緩和
している)
○競業避止義務の範囲について、裁判所が範囲を限定することはよくある。
本件の場合、「同業者」とは家電量販店に限ると限定的に解釈している。
○誓約書の提出過程
あまり強制にわたるものであれば、強迫取り消し・錯誤無効等の主張が出てくる可能性
があることに留意が必要。
本件では、公序良俗違反か否かの1ファクターとして提出過程を検討しているが、あまり
理論的ではない。
○競業避止条項と代償措置
従来の裁判例において、代償性は絶対的に必要なものとはされていない。
本判決も不要説に立脚しているが、損害額の算定で考慮していると判事している。
○義務違反の場合の効果(その1 退職金の50%の減額)
自己都合退職によって減額率を定めているなど、退職金は労働の対象に加えて功労
報償的な性格もあると認定された上で、退職金の減額条項が有効と判断されている。
なお、その前提として、16条に違反しないかという論点もあり、三晃社事件(最高裁昭和
52年8月9日・労経速958-25)は、「退職金の定めは、制限違反の就職をしたこと
により勤労中の功労に対する評価が減殺されて、退職金の権利そのものが一般の自己
都合による退職金の場合の半額の限度においてしか発生しないこととする趣旨である
と解すべきであるから」として、労基法16条に反しないと判断している。
もともと発生していないので、労基法16条の違約金ではないという判断である。
実務的には退職金には功労報償的な性格を明確にしておくこと、確定的に発生した
退職金から一定額を減じるという制度にしないこと、の2点が肝要である。
○義務違反の場合の効果(その2 給与6ヶ月分の違約金)
給与6ヶ月分に相当する額を違約金として請求するという誓約書の内容について、1ヶ月
分の違約金を有効として認めているが、16条に反するのではないかという疑問(いった
ん確定的に発生しているので、前述の三晃社事件のような論理で有効とすることはで
きないはず)、また賠償額の予定は裁判所の裁量で減額できないという民法420条1項
に反するのではないかという疑問がある。
←本件は「退職の自由の制約」という側面がないので、労基法16条の適用外で
あるという考え方も可能(21年3月25日補足)
損害の立証は困難ではあるが、民訴法248条によって裁判所が損害額を算定する
場合もあるので(日本コンベンションサービス事件・大阪高裁平成10年5月29日・労判
745-42)、必ずしも違約金の定めに拘る必要はない。
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