営業秘密

競業会社に就職した執行役員に対する転職差し止め請求

【X生命保険事件・東京地決平成22年9月30日・新2831】
○生保会社を退職した執行役員に対して競業禁止合意に基づいて
 1年間の競業行為を容認したもの。
 差し止め請求が認められた事例として参考となる
○ファクター
 ・債務者は執行役員として相当な厚遇を受け競業避止条項に対する
  代償としての性格もある
 ・執行役員契約書において、競業禁止条項がある(2年間)
 ・新たな保険商品の種類、開発計画、計画の進捗状況及び販売時期
  等に関する営業上の秘密にアクセスする権限があった
 ・債権者も競業会社も日本全国において営業を行っており、地域制限
  がなくてもやむをえない
○退職後の競業 下110418
 ・サクセスほか(三佳) 最高裁平成22年3月25日
  在職中の競業行為はなかった
  退職後の特約はなく、退職後の不法行為も否定
 ・ことぶき事件 最高裁平成21年12月18日
  退職後の特約はないが、退職後の不法行為を肯定(顧客カードを使用)

 

 

 

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退職後の競業行為と退職金の不支給

【東京コムウェル事件・東京地裁平成22年3月26日・労経2073】
○競業会社の代表取締役に就任した元従業員の退職金請求は理由
 がないとした例
○同種の事案は多く、事例によって結論は分かれるが、本件は経営
 側に有利な事例判例として使える
○本件では以下のような事実が認定されている 
 ・退職後の競業避止義務違反等の場合を退職金不支給とする退職
  金規程の存在
 ・問題となっている競業会社は本件被告会社の元従業員を中心に
  構成されており、顧客の引き抜き等をめぐってトラブルとなることが
  あった(被告会社と競業会社は元々敵対関係にあった)
 ・原告は、退職後4ヶ月後に競業会社に就職し、退職後6ヶ月も
  経ずして代表取締役に就任
 ・原告は被告会社の支店長等を歴任し、前記退職金規程の存在や
  競業会社との敵対関係を十分に認識していた
 ・退職後真摯に求職活動を行ったとはいえない
 ・退職金の金額1500万円
○背信性は高く、退職金不支給は当然と思われる

(参考判例)
【東京コムウェル事件・東京地裁平成20年3月28日判決
 ・労経速2015-31】
○退職後6ヶ月間の競業避止義務(就業規則及び退職時の誓約書
 によるもの)に違反して退職後4ヶ月後に同業他社に就職した元従
 業員に対する、退職金全額不支給の効力が争われた事案
○退職金不支給条項には該当するが、業務中知り合った顧客に連
 絡したのは1名のみであるし、会社の利益や信用を損なう言動もな
 いので、退職金不支給は許されないと判断された事例
●懲戒解雇の際の退職金の全額不支給の有効性と同一の論点で
 あり、事例判断である。事案によっては不支給が許される場合もあ
 るのは当然である。
●参考
 1 競業避止と退職金不支給に関しては、ある程度具体的にかつ
   
限定的に規定した方が実効性が確保できるのではないか
   (例 同業他社に就職してかつ、担当顧客を引き抜く行為を行う
      場合は、全額不支給にする)
 2 競業避止義務の設定については、就業規則の周知、不利益変
   更等の論点も生じることに留意が必要。
   なお、本件の場合、不利益変更については合理性が認められて
   いる。

 

 

 

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競業避止義務違反と違約金請求

【ヤマダ電機事件・東京地裁平成19年4月24日判決・経営法曹159-15】
○退職時に作成した誓約書に違反して同業他社(ケーズデンキ)に就職した元従業員に対
   する損害賠償請求事案。誓約書では、「損害賠償違約金として、退職金を半額に減額
 するとともに、直近の給与ヶ月分に対して、法的措置を講じられても一切異議は申立て
 ません」と記載されていた。
○裁判所は、退職金の50%及び給与1ヶ月分の違約金請求を認めた。
○当初、派遣会社に登録して、ケーズデンキの子会社に派遣されるという形で、転職して
 いる。明らかに脱法的な手法であり、実務においても注意を要する。
 なお、裁判所はこの点について、子会社であって役員も共通するなど密接な関係にある
 ので、同業者に該当するし、もともと当該子会社に派遣されることを前提として派遣社員
 として登録して稼動したことは、「転職」に該当すると判断している。
○競業避止条項の有効性として、「目的」というファクターがある。
 すなわち、単に競争者の排除・抑制を目的とする場合には公序良俗に反する(フォセコ・
 ジャパン・リミテッド事件・奈良地裁昭和45年10月21日)
 正当な目的に基づくものかどうかは、秘密保護の必要性との相関関係と思われる。
 本件の場合は、以下のようなファクターから目的の正当性が認定されている。
 ○本件被告は、立場上原告の全社的な営業方針・経営戦略等を知ることができた
 ○原告固有のノウハウを持っていたからこそ、ケーズデンキは被告を給与面で
   優遇して採用した
 ×原告が競業避止条項によって保護することを目的とする固有のノウハウとは何か
  具体的には明らかにしていない
  (しかし、競業避止条項違反の態様が軽微でないことなどを挙げて、立証を緩和
   している)
競業避止義務の範囲について、裁判所が範囲を限定することはよくある
 本件の場合、「同業者」とは家電量販店に限ると限定的に解釈している。
誓約書の提出過程
 あまり強制にわたるものであれば、強迫取り消し・錯誤無効等の主張が出てくる可能性
 があることに留意が必要。
 本件では、公序良俗違反か否かの1ファクターとして提出過程を検討しているが、あまり
 理論的ではない。
○競業避止条項と代償措置
 従来の裁判例において、代償性は絶対的に必要なものとはされていない
 本判決も不要説に立脚しているが、損害額の算定で考慮していると判事している。
○義務違反の場合の効果(その1 退職金の50%の減額)
 自己都合退職によって減額率を定めているなど、退職金は労働の対象に加えて功労
 報償的な性格もあると認定された上で、退職金の減額条項が有効と判断されている。
 なお、その前提として、16条に違反しないかという論点もあり、三晃社事件(最高裁昭和
 52年8月9日・労経速958-25)は、「退職金の定めは、制限違反の就職をしたこと
 により勤労中の功労に対する評価が減殺されて、退職金の権利そのものが一般の自己
 都合による退職金の場合の半額の限度においてしか発生しないこととする趣旨である
 と解すべきであるから」として、労基法16条に反しないと判断している。
 もともと発生していないので、労基法16条の違約金ではないという判断である。
 実務的には退職金には功労報償的な性格を明確にしておくこと、確定的に発生した
 退職金から一定額を減じるという制度にしないこと、の2点が肝要である
○義務違反の場合の効果(その2 給与6ヶ月分の違約金)
 給与6ヶ月分に相当する額を違約金として請求するという誓約書の内容について、1ヶ月
 分の違約金を有効として認めているが、16条に反するのではないかという疑問(いった
 ん確定的に発生しているので、前述の三晃社事件のような論理で有効とすることはで
 きないはず)、また賠償額の予定は裁判所の裁量で減額できないという民法420条1項
 に反するのではないかという疑問がある。
 ←本件は「退職の自由の制約」という側面がないので、労基法16条の適用外で
   あるという考え方も可能(21年3月25日補足)   
 損害の立証は困難ではあるが、民訴法248条によって裁判所が損害額を算定する
 場合もあるので(日本コンベンションサービス事件・大阪高裁平成10年5月29日・労判
 745-42)、必ずしも違約金の定めに拘る必要はない。

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